uta de yomu Genji Monogatari
目 次
玉鬘への思いを篝火に託す源氏の歌
（篝火の巻 第１回）
かゞり火にたちそふ戀の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけり
古典文学大系 三 ４１頁
（口語訳）
篝火とともに立ち上るあの煙こそあなたを思うわたしの恋のようです。篝火は消えても私の思いは決して消えることのない炎なのですね。
（解説）
「篝火の巻」は、古典文学大系で４頁の短編です。玉鬘との切ない恋が語られます。
文月の五六日比のすずしい夕方、源氏は、今日も玉鬘のお部屋に入りびたりです。近江の君の件で、勝利者となった源氏は、さらに大胆になってきます。一方、玉鬘も源氏に心を許し始めるのでした。二人は、琴を枕に添い寝していました。しかし、源氏は、それ以上のことはできません。名残惜しくも煩悶しながらも玉鬘と別れねばなりません。
外を見ると一陣の風が涼しさを運んできます。われに返った源氏が、玉鬘を見ると、上品でつつましやかに愛らしい様子です。手に触れていた玉鬘の美しい髪の感触もすずしく蘇ってきます。源氏は、部屋を後にするわけには行かなくなってしまうのです。庭の篝火を見て、玉鬘に歌った歌が今回の歌です。
篝火の火よりは煙に視点をおいたことが注目されます。燃え盛る炎よりも煙のように鬱積して満たされることのない恋の象徴なのです。「こそ」とことさらに強い表現をしています。源氏は、「くるしき下燃えなりや」と付け加えてもいます。晴れることのない切ない恋の思いがこれからずっと続くことへの苦しみが歌われているのです。源氏の精一杯の恋の告白なのでしょうか。
燻る煙については、「篝火は、松の割り木を燃やす。松やにの強いのを燃やすのであるから、煙が強い。」（玉上「源氏物語評釈」）と説明されています。
閑暇休題。
玉鬘の魅力を表現するに当たって、「御髪の手あたりなど、いと、ひやゝかに」（古典文学大系 三 ４０頁）という描写があります。とても具体的で官能的な表現だと思います。源氏が玉鬘を愛撫しているのですが、源氏と玉鬘の関係や距離感や心理などが瞬時にイメージ化できるのです。